このブログ「NO TRAVEL NO BIKE」では、バイク旅や海外旅行、自由なライフスタイルを求めた経験を綴ります。まずはイタリアKTMバイク旅での冒険や、ジャンピエロとの出会いなどリアルな体験記をお届けします。今回は、渡辺美里さんの「10years」とともに振り返ります。

【10yearsと僕の周回遅れ】

「大きくなったら どんな大人になるの」
周りの人にいつも 聞かれたけれど
時の速さに ついてゆけずに
夢だけが両手から こぼれおちたよ
あれから10年も この先10年も


2017年8月31日。
僕は23年ぶりに渡辺美里のコンサートへ向かっていた。最後に行ったのは1995年の西武球場。はるか昔、外野席で青春の汗を流していた頃だ。ライブアルバム『Live Love Life』を聴けばあのときの空気や歓声が鮮明に蘇る。なにせ“自分がそこに居た”記録でもあるから始末に悪い。忘れたくても忘れられない。

そもそも、僕が「10years」を初めて聴いたのは高校生のとき。曲が流れるたびに、不思議な透明感と甘酸っぱさで胸が締めつけられた。10年経ったらどんな大人になっているんだろう。そんな希望と焦燥をまるっと抱え込んだまま卒業して、気づけば社会人――というより、当時の僕はフリーターだったり派遣だったりを転々としていて、堂々と「これが俺の生きる道だ!」なんて言える代物でもなかった。たとえば同い年の連中はもうそれなりのポジションに収まったり、貯金がいくらとか家を買い始めたりしていて。もちろん僕は偉くなりたいわけでも、お金持ちになりたいわけでもなかった。ただ、“旅”と“自由”が欲しかった。それだけだったんだ。

だけど、普通に働けと親から責められる日々。「今さら普通になったところで、すでに周回遅れだろ……」なんて拗ねながら、具体的にどうすれば旅と自由を手に入れられるのか全然わからなくて。いつも頭の中では「10years」が流れては、両手からこぼれ落ちていく夢を見せつけられているような気分になったものだ。

そして2017年のこの日。あの「10years」を生で聴くために、同じ名前のコンサートにやってきたわけだ。懐かしさで胸がいっぱいになる、というよりは「またあの頃の自分にぐさっとやられるな……」と警戒している自分がいる。結局、曲に触れるたびに、あの当時の苦さとか未熟さが呼び起こされる。だから言わば“気持ちよさ半分、胸の痛み半分”みたいな感じ。でもそこが音楽ってやつの恐ろしさであり、優しさでもあるんだろう。

思い返せば、あのとき抱いていた夢はかろうじて両手からこぼれ落ちずに残っていたみたいだ。気づくといつの間にか、当時は思いもしなかったかたちで叶い始めてる。バイクの免許を取ったのが2年と5ヶ月前。それから札幌でイタリア人のバイク冒険家ジャンピエロに出会ったのが2年と3ヶ月前。その男が「今度イタリアに来いよ。ヘルメットだけ持ってくりゃいい。それ以外は任せとけ」なんて言うもんだから、まさかのイタリアへバイク旅をすることになった。出発まで、あと5日。あの頃、旅と自由を夢見てぐるぐるもがいていた僕が、いよいよ海外ツーリングとは……人生わからないもんだ。

ずいぶん遠回りしたし、今もまだまだ完成形にはほど遠い。だけど“周回遅れ”の道の先にも、意外といろんな景色が待っている。1995年の西武球場で聴いた「10years」は僕に少々意地悪な記憶を呼び起こすけれど、だからこそ「そこまで走ってきた自分」を再確認させてもくれる。ま、こうやって思い返すたびに胸がキリキリするのは仕方ない。自分で選んだ道なんだから。

というわけで、イタリア行きまであと5日。とりあえずヘルメットを鞄に突っ込んで、ジャンピエロの「任せておけ」を信じるしかない。

本当に大丈夫なのか。いや、そんなことはどうでもいい。とりあえずヘルメットを持って、旅に出るのだ。

次回:イタリアKTMバイク旅プロローグ1へ続く

コンサート開始前

次回予告:イタリアKTMバイク旅プロローグ?

これから始まるイタリアでのバイク旅では、ジャンピエロとの再会や海外での走行など、自由な旅の魅力をお伝えします。まずは免許取得編へ・・・
バイク旅や海外ツーリングに興味がある方は、ぜひ次回もご期待ください。

次回は↓
イタリアバイク旅プロローグ1

2015年ジャンピエロ札幌を出発